「編集部にイラストの持ち込みに行く 実践編」

先週からの「持ち込みのまとめ」はこの更新で完結となります。きょうは「実践編」です。

「準備編」 http://d.hatena.ne.jp/artcenter/20090604
「調査編」 http://d.hatena.ne.jp/artcenter/20090611
「電話編」 http://d.hatena.ne.jp/artcenter/20090615
「実践編」 http://d.hatena.ne.jp/artcenter/20090616

困ったときには参考にしてみてください。話を聞いたり経験したりしたことを元に書いているので、内容が全部正しいと鵜呑みにされても困ってしまうのですが、ともあれイラストレーター志望の方に役に立てばうれしいです。


【編集部にイラストの持ち込みに行く 実践編】


★まずはじめに

編集さんは忙しい業務のあいだをぬって、わざわざ時間をつくってイラストを見てくれます。ひとりの社会人として、感謝の気持ちを忘れないように。必要以上にへりくだることはないが、反面、横柄な態度では話になりません。


■持ち込み当日■


★どのようなファイルを用意すればいいか

これは、持ち込みに行く時にも編集部にファイルを送る時にも同じことが言えます。編集部が必要としているイラストをまとめてファイルづくりをすることが必要です。編集部が必要としているイラストは、編集部が出している書籍(雑誌)にはどういうイラストがたくさん使われているかを調べればわかります。

わかりやすい例えだと、ライトノベルの編集部にはライトノベルで使われているようなイラストを送ることで作品を見てもらえるし、ライトノベルの編集部にキャラクターのかけらもない抽象絵画的なイラストを持ち込んだところでまったく見当違いです。

「準備編」において、イラストファイルは20ページ(枚)くらいにまとめるのが見やすいと書きましたが、その20ページを訪問する(ファイルを送る)編集部ごとにイラストを入れ替えて、少しでも編集さんの目にとまるように工夫することが効果的です。

どうすれば編集さんの目にとまる効果的なファイルをつくることができるか、先に「編集部が必要としているイラストは、編集部が出している書籍(雑誌)にはどういうイラストがたくさん使われているかを調べればわかる」と書きましたが、これを念頭に、編集部が必要としているであろうイラストを考えて、編集部の編集さんだったらどういうファイルがありがたいだろうと考えて、ファイルづくりをしてください。

いまいちよくわからないぞ、というときには、原点に立ち返って「編集部が出している書籍(雑誌)にはどういうイラストがたくさん使われているか」をビジュアルで徹底的に調べてください。共通点を見つけられるはずです。

補足として、ファイルづくりのうえでひとつ忘れがちなことをメモしておきます。いわゆる「読み物」(文庫や新書)の編集部さんには、モノクロのイラストを入れることを忘れずに。20ページのファイルだとしたら、半分くらいはモノクロになってもよいと思います。書籍の表紙はカラーが多いですが、さし絵はほとんどがモノクロです。カラーばかりではさし絵のイメージができません。


★持ち込み当日までのチェックリスト

1.訪問する編集部に合ったファイルづくりをする+名刺をつくっておく
2.調べた編集部の連絡先に間違いないか確認
3.できれば2冊くらい人気のタイトルを読んでみる
4.編集部(出版社)の所在地を確認する
5.交通経路を調べる(30分前に着くように)

「できれば2冊くらい人気のタイトルをさらっと読んでみる」ことは、忘れがちになりますが大切です。書籍などのイラストを描くというということは、本づくりに参加するということになり、本が売れなければ出版社さんは商売になりません。売れる本づくりに参加することがイラストレーターの仕事であるとも言えるわけでして、いわば責任の一端を担うことになるのですから、事前調査はしておいて損になることはありません。

交通経路を調べるときに30分前にしておくのは、遅刻をしないためです。遅刻厳禁です。約束をして時間を取ってもらっているのだから、時間に遅れるなんぞ話になりません。電車が遅延した場合でも間に合うように30分前にしておきましょう。はやく着いたら近くで時間をつぶせばいいだけですし。


★持ち込み当日の持参物

1.20ページくらいのイラストファイル 数冊+予備 
2.自作のイラストをまとめたファイル 1冊
3.名刺+名刺入れ 30枚くらいあれば安心

4.携帯電話
5.訪問先所在地・交通経路などのメモ

6.スケッチブックやノートなど(いつでも描けるように)
7.筆記用具(シャーペンや鉛筆を入れておく)


訪問する編集部に合うようにつくったイラストファイル(1)は、編集さんとの面談が終わったあと差し上げる(置いてくる)ためのものです。

自作イラストをまとめたファイル(2)は、完成品から下描きラフまであらゆる原画を中心に50ページ程度のイラストをファイルして詰め込んでおきます。これは必ず持って帰ってくること。置いてきてはダメです。まず、イラストファイル(1)を見てもらい、次に自作イラストをまとめたファイル(2)を見てもらいます。

この(2)のファイルは特に体裁を気にせず適当につくってください。50ページ程度あればじゅうぶんだと思います。ジャンル別に分けて並べておけば、どんなファイルでもよいでしょう。イラストファイル(1)だけだと20枚しか絵がないので、なかなかアドバイスをしにくい編集さんもいらっしゃると思います。

ほかにもたくさんの絵を用意して見てもらうことで、編集さんも的確なアドバイスが出来ると思いますし、もしかしたら(2)のなかに編集さんが気に入ってくれる絵が入っているかもしれません。あと、ラフ画を見たいという編集さんが多い気がします。線の上手さ、画面の構成力、背景の正確さなどがラフ画の段階でおおよそわかるそうです。(2)のファイルにはラフ画を入れておくのがおすすめ。

ノート(6)と筆記用具(7)は、編集さんの話をメモするためだけではなく、実際に編集さんを前にしてカンタンなイラストを描いてみたりするためのものです。(面談中に勝手に描いたりするのは問題外)

持ち込みに行った先で「○○な雰囲気の絵は描けますか」と聞かれたときに、話の流れで2分くらいでおおよそのラフ画を描いて見せたりする機会があるかもしれません。編集さん・作家さんののアイディア、意向を的確に汲み取ってすばやく絵にできることは、編集さんにとっては最高のイラストレーターです。うまくいって気に入っていただけたらの話ですが・・・


★いざ出発

当たり前のことですが、持ち込みにはひとりで行きましょう。学生や未成年であってもひとりで持ち込みに行きましょう。仲間や友人どうしで行くものではありませんし、ましてや保護者同伴など論外です。何度も書いているように「イラストレーターは社会人であり自営業者」であって、仕事の際には正当な対価(制作費)をいただくわけですから、社会人として、常識的な対応をしてください。

当日の服装ですが、スーツなどの正装である必要はまったくありません。むしろスーツは禁止の方向でよいのでは。おしゃれである必要はありませんので、「清潔感がある私服」であれば問題ないでしょう。男子の場合スニーカーとジーパンとシャツを羽織る感じで問題なしです。

女子の場合は・・・わかんないです(笑)


★編集部に着いてから

あとは編集部さんに行って面談するだけ。会社の規模によっては受付があったりなかったり、大きな建物だったりビルの一室だったりもしますが、することは同じです。5分前くらいには受付で「編集部の○○様に、きょう○時から打ち合わせで約束をいただいている、イラストレーターの○○ですが」と取次ぎをお願いしましょう。


★あいさつ

部屋に入るときは「失礼します」、編集さんに会うときは「はじめまして」「よろしくお願いします」「お時間いただきありがとうございます」と笑顔でちゃんと言ってくださいね。これだけで印象がずいぶん違いますから。帰るときにも「お忙しいところありがとうございました」と笑顔であいさつしましょう。

あと、名刺交換の練習を事前にしておいたほうがよいでしょう。


★心構え

何度も書いていますが、編集さんは忙しい業務のあいだをぬって、わざわざ時間をつくってイラストを見てくれます。ひとりの社会人として、感謝の気持ちを忘れないように。必要以上にへりくだることはないが、反面、横柄な態度では話になりません。これを常に忘れないようにしてください。

そのうえで注意事項をいくつか書いておきます。

1.アドバイスは謙虚に聞くこと
2.編集さんの言葉を途中でさえぎらない、最後まで聞くこと
3.自分の絵はこうだから・・・という自己主張はイラストでしてください
4.ひとつひとつの絵についてのコメントを求めないこと
5.キツイことを言われることもあるので覚悟をじゅうぶんにしておくこと
6.常に前向きであること

基本姿勢は謙虚に聞く(1・2)ことです。自分から意見をするために持ち込みに行くのではなく、編集さんから意見をもらうために、ひいては仕事をゲットするために持ち込みに行くのだということを忘れないで。そして、人の話は最後まで聞きましょう。

アドバイスに対して、逆ギレするように意見を並び立てて自分の作品を正当化?しようとする方がたまにいるんだよなーという編集さんの話を聞いたことがあります。まったく話にならない。絵を見て伝わらなければ絵で仕事するなんて・・・編集さんに伝わらないってことはおそらくその先にある多数の読者にも伝わらない。

自己主張はイラストで(3)してください。それで伝わらないのであれば、まだ足りないということです。伝わるような絵の見せ方を編集さんは教えてくれるので、謙虚にアドバイスを受けましょう。自分の絵はこうだから、という風に自分で決めつけないこと。絵に関して自分であーだこーだと決めつけることは、自分で自分の可能性を否定しているということですから。

ひとつひとつの絵に関するコメントというよりは、全体的にどうこうといったアドバイスを受けることになると思います。編集さんは絵描きではないので、具体的に聞かれても困ってしまいます。この絵はどうですかとか、どこがダメだとか、ひとつひとつの絵に対する意見を求めない(4)ようにしてください。アドバイスを受けたことはどういうことなのかを自分で徹底的に考えてみましょう。

(5)と(6)はセットで考えておきましょうか。初持ち込みで自分の弱点をズバリ指摘されてへこんだという話を聞くことがありますが、面談の場で露骨にへこまないこと!謙虚にアドバイスを受け止めて、がんばります!といった姿勢を見せましょう。逆の立場になって考えてみてください。あなたが編集だとして、イラストレーターのために熱心にアドバイスしたところで相手にへこまれてしまったら・・・本末転倒です。常に謙虚で前向きに!


■持ち込みが終わってから■


★お礼のメールを送ろう

持ち込みが終わって帰宅したら、さっそく会っていただいた編集さんにお礼のメールを送りましょう(いただいた名刺に書いてある)。内容は簡潔でよいと思います。

ここでのポイントは、メールの最後の署名にホームページアドレスを載せておくことです。運がよければメールを受け取った編集さんはそのままホームページを見てくれるかもしれません。

また、イラスト入りの暑中見舞いや年賀状などを送ることも効果的でしょうか。イラストを気に入ってくれて、思い出してくれて仕事の依頼があるかもしれませんよ。


★別の編集部に持ち込みに行こう

イラストの持ち込みは数が勝負です。「○○社に行ったから少し様子みようかな」とさぼらないこと。様子をみたところで仕事は来ません!ひたすら編集部さんに電話して、ファイルを送ったり、イラストを持ち込んで見てもらいましょう。編集さんのアドバイスを聞いて自分の絵を見直して描き直しながら、とにかく数を回っていれば、イラストの仕事をいただく(あなたのイラストを選んでもらう)確率はどんどん上がっていきます。



以上で「編集部にイラストの持ち込みに行く」まとめは完結です。